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緒言

 

 「混効験集(こんこうけんしゅう)は、おもろさうしのロゼッタ・ストーンである。」伊波普猷の言葉です。昔の沖縄の辞書というよりは、文学であると思います。原文は、大変むずかしく、初めての人には、はるか遠くにあるように思えますが、これを現代語になおすと、本当に身近なものとなります。おもろさうしへの橋渡しとなります。必ず、沖縄の言葉、沖縄の文化に興味を持つきっかけになると思います。現代語になおすだけではなく、適宜に、補足説明を付け加えました。※以下が補足説明です。またすべての語句に現代風の発音を付けました。混効験集の発音表記は、現代の琉球語からは、かけはなれています。それを何とか、現代に近づけようとしました。現代の人に合わせた発音です。勝手に発音を変えてもいいのかと、専門の先生方から批判を受けそうです。われわれの話す英語は、かなりなまっています。英米人の発音とは違っています。無理にネイティブに近づける必要はないと思います。むしろ、ネイティブと同じように発音する事のほうが不自然です。混効験集の時代、あるいは、おもろの時代の発音にあわせる必要はないと思います。そもそも、その時代、どのように発音されていたのかを、確かめることも、立証することもできません。そうであるならば、現代風に発音して楽しく読んだほうがいいと思います。そして、より深く学びたい人は、当時の発音の勉強にすすめばいいと思います。混効験集は、琉球国王の命により、当時の言葉をよく覚えていたある官女の言葉を編者に聞き取らせて、編集したものです。編者および、筆者等の名前は集の冒頭に記載されています。失われていく言葉をなんとか後世に伝えようとしたのです。現在のわれわれも見習うべきであります。お読みになるとお分かりになりますが、現代まで生き残った言葉と、そうでない言葉があります。現代まで残った言葉には本当の親しみを感じます。そうでない言葉にも、はるかむかしの郷愁を感じます。まさに文学なのです。原文は、評定所本の写真版から直接転写、校訂しました。不鮮明な部分、あるいは、欠損した箇所がかなりあります。特に、原本のとじてある部分に近いところが読みづらいです。これらに関しましては、現代語訳のほうで補いました。外間守善氏の「混効験集:校本と研究」を参考にさせて頂きました。ここに明記し深く感謝申し上げます。おもろさうしに載っている語句は、見出し語の右に、通し番号を(  )に記しました。これに関しましては、同氏の「おもろ語辞書」を参考にしました。これもあわせて感謝申し上げます。今帰仁の方言に関しましては、今帰仁村湧川出身の幸地由美子氏の協力を頂きました。おもろさうしの色彩に関しましては、沖縄県立芸術大学付属研究所の大竹有子氏の論文「『おもろさうし』における色彩の表現」を引用いたしました。ここに明記し感謝申し上げます。

 

 原文は複数の編者により編集されたものを、最終的に、責任者の三司官・識名盛命が、朱で、修正・加筆しています。修正部分の送り仮名はひらがなですが、加筆部分の送り仮名は、カタカナになっています。原文で、カタカナの送り仮名がある部分は、識名の加筆と見ていいと思います。

 

 原文の漢字表記についてですが、この時代に新漢字はありません。それでは、すべて旧漢字かというと、そうでもありません。現行の新漢字は、漢字の草書体からできたものが多数あります。原文では新漢字と同じように書かれた漢字がかなり見られます。これを、あえて、旧漢字に戻す必要はないと思います。原文が新漢字に近ければ、新漢字で、旧漢字に近ければ、旧漢字を使用することにしました。現代語訳では、原則として、すべて新漢字を使用することにしました。 

 

 琉球語には長音が多く、これをどのように表記しようか考えましたが、長音記号「−」を使用すると、至る所に、「−」が現れ、あまり見た目がよくありません。もともと、ひらがなの長音は、前の音の母音を重ねて書くというのが通例でした。それが、いつのまにか、カタカナと同様に「−」が使用されるようになりました。いまでは、それが当たり前のようになっています。現代語訳:混効験集では、いまいちど、もとの原則に立ち返って、前の音の母音を重ねることで、長音を示すことにしました。原則をつらぬくため、「お」の後ろでも「お」を重ねて長音を示すことにしました。現行の日本語のかなの長音では、「お」の長音に限り、後ろに「う」を添えることになっています。琉球語の表記では、意味のないことですので、「お」の長音を表す場合も「お」を付けることにしました。たとえば、「そー」は「そう」ではなく、「そお」です。「こー」は、「こう」ではなく、「こお」です。日本語は、なぜ、「お」の長音だけ「う」を添えるようになったのでしょうか。それには、理由があるようですが、その理由は、琉球語の場合には成り立ちませんので、「お」の長音も「お」を添えることで、統一しました。慣れると全然問題ありません。むしろ、「こう」を「こー」と読むほうが不自然です。

 

 原稿の作成から、校閲までをすべて、一人で行いました。誤字・脱字、そして、内容の不備等がございましたら、御教え頂ければと思います。

 

   2017年6月21日 

                              當眞嗣美